歯ブラシの毛先が、まるで使い古したほうきのように広がってしまっている。そんな状態になっても、「もったいないから」と使い続けていませんか。その行為は、節約どころか、将来の歯科治療費という、もっと大きな出費につながる可能性を秘めた、非常にリスクの高い習慣です。毛先が開いた歯ブラシを使い続けることには、主に三つの深刻なリスクが伴います。リスク1:歯垢除去率の劇的な低下。歯ブラシの最も重要な役割は、歯の表面に付着した歯垢(プラーク)を物理的に除去することです。新しい歯ブラシのまっすぐで弾力のある毛先は、歯の凹凸や、歯と歯茎の境目に的確にフィットし、歯垢を効率よくかき出してくれます。しかし、毛先が開いてしまうと、その機能は著しく損なわれます。広がった毛先は、歯の表面をただ滑るだけで、肝心の汚れにアプローチすることができません。ある研究によれば、毛先が開いた歯ブラシの歯垢除去率は、新品に比べて四十パーセントも低下すると言われています。つまり、毎日同じ時間、同じように歯を磨いているつもりでも、実際には半分近くの汚れが取り残されているのです。この磨き残された歯垢が、虫歯や歯周病の直接的な原因となります。リスク2:歯と歯茎へのダメージ。広がって硬くなった毛先は、もはや優しいブラシではなく、歯や歯茎を攻撃する「凶器」と化します。まっすぐな毛先であれば、歯と歯茎の境目に優しく当てることができますが、開いた毛先は、コントロールが効かずに歯茎を突き刺したり、強くこすったりしてしまいます。これにより、歯茎は炎症を起こして出血しやすくなったり、刺激によって少しずつ退縮(リセッション)してしまったりします。歯茎が下がると、歯の根元が露出し、知覚過敏や根面う蝕(根元の虫歯)のリスクが高まります。また、歯の表面のエナメル質も、硬い毛先でゴシゴシと磨耗させられ、傷がついてしまうこともあります。リスク3:口内細菌の温床となる。使い古した歯ブラシの毛束の根元は、湿気が多く、清掃も行き届かないため、雑菌が繁殖するのに最適な環境です。毛先が広がるほど、毛と毛のあいだの空間も広がり、さらに細菌が溜まりやすくなります。そんな不潔な歯ブラシで歯を磨くことは、口の中に細菌を再付着させているのと同じです。これが口臭の原因となったり、体の抵抗力が落ちている時には、感染症のリスクとなったりする可能性も否定できません。