「歯ぎしり」というと、多くの人は夜、眠っている間の行為を想像します。しかし、実は日中、起きている間に無意識に行っている「食いしばり」も、歯や顎に大きなダメージを与える、もう一つの歯ぎしりなのです。この癖は「TCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)」と呼ばれ、これを改善することが、夜間の歯ぎしりを含めた全体の症状を緩和させるための、非常に重要な「治し方」となります。本来、私たちの上下の歯は、リラックスしている状態では接触していません。唇は閉じていても、歯と歯の間には一ミリから三ミリ程度の隙間(安静空隙)があり、接触するのは会話や食事で物を噛む瞬間だけです。一日に合計しても、歯が接触している時間はわずか二十分程度と言われています。しかし、TCHの癖がある人は、仕事に集中している時、スマートフォンを見ている時、家事をしている時など、気づかないうちに上下の歯を「持続的に」接触させてしまっています。この持続的な接触が、たとえ強い力でなくても、顎の筋肉を常に緊張させ、疲労を蓄積させてしまうのです。このTCHを治すための第一歩は、まず「自分がTCHをしていることに気づくこと」です。そのための最も効果的な方法が「貼り紙法」です。パソコンのモニターや、部屋のドア、スマートフォンの画面など、日常生活で頻繁に目に入る場所に「歯を離す」「力を抜く」といったメモを貼っておきます。そして、そのメモが目に入るたびに、自分の上下の歯が接触していないか、顎に力が入っていないかをチェックするのです。もし接触していたら、意識してフッと力を抜き、歯と歯の間に隙間を作ります。この「気づいて、離す」という行為を一日何度も繰り返すことで、歯が離れている状態が正常なのだと、脳と体に再教育していくのです。最初は面倒に感じるかもしれませんが、特別な道具も費用もかからない、最も簡単で効果的なセルフケアです。夜間の歯ぎしりに悩む人も、まずは日中のTCHという悪癖から治していく意識を持つことが、問題解決への大きな一歩となります。