鏡で口の中をチェックしている時、歯と歯のあいだに黒や茶色の点を見つけると、「もしかして虫歯?」と不安になりますよね。しかし、歯が黒っぽく見える原因は、必ずしも虫歯だけとは限りません。それは、単なる「着色(ステイン)」である可能性もあります。この二つを正確に見分けることは、専門家でなければ困難ですが、ある程度の目安を知っておくことは、過度な不安を和らげ、適切なタイミングで受診するのに役立ちます。まず、「虫歯」による黒い変色は、歯の構造そのものが破壊された結果として現れます。虫歯菌が作り出した酸によって歯のエナメル質が溶かされ(脱灰)、その部分が多孔質になって、そこに外部からの色素が沈着したり、象牙質が変性したりすることで黒く見えます。虫歯の場合、その黒い点は、ただ色が乗っているだけでなく、実際に「穴」が開いていたり、「溝」のように線状になっていたりすることが多いのが特徴です。探針のような鋭利な器具で触れると、ザラザラとした感触があったり、柔らかくて器具が引っかかったりします。一方、「着色(ステイン)」による黒い変色は、歯の表面に色素が付着しているだけの状態です。コーヒー、紅茶、赤ワインなどの飲食物に含まれるポリフェノールや、タバコのヤニなどが、歯の表面にある微細な凹凸や、歯と歯のあいだの清掃が不十分な場所に沈着します。着色の場合は、歯の表面は硬く、滑らかであることがほとんどで、穴が開いているわけではありません。その色は、黒というよりは、茶色や黄褐色に近いことが多いです。では、どうすれば良いのでしょうか。残念ながら、自分自身で「これは絶対に着色だ」と断定するのは非常に危険です。なぜなら、虫歯の本当にごく初期の段階では、まだ明確な穴にはなっておらず、着色と見分けがつかないことがあるからです。その「ただの着色だ」という自己判断が、虫歯の発見を遅らせ、治療を大掛かりなものにしてしまう最大の原因となります。歯と歯のあいだに、これまでなかった黒や茶色の点を見つけたら、それが何であれ、まずは「虫歯の疑いがある」と考えて、速やかに歯科医院で専門家の診断を仰ぐのが最も賢明な対応です。