年齢とともに、あるいは歯磨きの仕方が悪いために、歯茎がだんだんと下がり、これまで隠れていた歯の根元が見えてくることがあります。そして、その露出した根元が黒っぽく見えるようになると、多くの人は「歯が汚れてきた」「年だから仕方ない」と考えてしまいがちです。しかし、歯茎が下がった歯の根元が黒く見えるのには、単なる老化や汚れとは違う、いくつかの明確な理由が存在します。まず、理解しておきたいのは、歯の構造です。通常、歯茎に覆われている歯の根の部分は、「象牙質(ぞうげしつ)」という組織でできています。私たちが普段「歯」として見ている白い部分は「エナメル質」ですが、象牙質はエナメル質よりも色が黄色っぽく、そして遥かに柔らかく、酸に弱いという特徴があります。歯茎が下がって、この無防備な象牙質が露出すると、いくつかの問題が起こります。一つは、「着色のしやすさ」です。象牙質の表面はエナメル質よりも多孔質で粗造なため、コーヒーやお茶などの飲食物の色素が非常に付着しやすく、沈着しやすいのです。これが、根元が茶色から黒っぽく見える原因の一つです。二つ目は、「虫歯のリスクの増大」です。前述の通り、象牙質はエナメル質よりも酸に弱く、虫歯に対する抵抗力が低いため、露出した歯の根元は非常に虫歯になりやすい場所となります。この「根面う蝕(こんめんうしょく)」は、痛みが出にくく、ゆっくりと進行するのが特徴で、気づかないうちに歯の根元をぐるりと囲むように黒っぽい虫歯が広がっていることがあります。三つ目は、「知覚過敏」です。象牙質には、神経につながる無数の細い管が通っているため、露出すると、冷たいものや歯ブラシの刺激が神経に伝わりやすくなり、キーンとしみるようになります。そして、もう一つの大きな原因が、「歯石」の付着です。歯周病が進行して歯茎が下がると、歯周ポケットの奥深く、歯の根元にまで歯石が付着します。この歯石、特に歯茎の下にできる「歯肉縁下歯石」は、血液成分を含むため、黒っぽい色をしています。これが、歯の根元が黒く見える原因となるのです。このように、歯茎が下がって根元が黒く見えるのは、口内環境が悪化しているサインです。適切なケアと治療で、これ以上の進行を防ぐことが重要です。
歯茎が下がって歯の根元が黒く見える本当の理由