抜歯をした後、歯科医師から「食事は、抜歯した側とは反対側で噛んでくださいね」と、必ず指示があります。これは、傷口を刺激から守り、順調な治癒を促すための、非常に重要な約束事です。では、この「反対側で噛む」という生活は、一体いつまで続ければ良いのでしょうか。その期間の目安は、抜歯した歯の種類や、抜歯の難易度、そして個人の回復力によって異なりますが、一般的には「少なくとも、抜糸(ばついと)をするまで」と考えるのが一つの基準となります。歯茎を切開して抜歯した場合、通常、術後一週間から十日後くらいに、傷口を縫い合わせた糸を抜く「抜糸」が行われます。この頃になると、抜歯した穴(抜歯窩)の表面は、新しい歯茎の組織(上皮)で覆われ始め、傷口がある程度安定してきます。そのため、抜糸が終われば、少しずつ、抜歯した側でも、柔らかいものから噛む練習を始めても良い、というサインになります。ただし、これはあくまで目安です。抜糸が終わったからといって、すぐに硬いものをガリガリと噛んで良いわけではありません。抜歯窩の内部では、まだ骨の再生が続いている、デリケートな状態です。無理をすれば、痛みがぶり返したり、治癒が遅れたりすることもあります。反対側で噛むのをやめるタイミングは、「噛んでも痛みや違和感がないこと」を、自分自身で確認しながら、徐々に判断していくのが正解です。焦らず、ゆっくりと、普段の食事に戻していくプロセスが大切です。例えば、抜糸後、まずはご飯粒のような柔らかいものが、抜歯側に当たっても痛くないかを確認する。大丈夫であれば、次は、柔らかく煮た野菜などを、そっと噛んでみる。というように、段階を踏んでいくのが良いでしょう。特に、親知らずの抜歯などで、骨を削るような処置をした場合は、穴が完全に骨で埋まるまでには数ヶ月かかります。その間は、硬いものや鋭利なものが、偶然、抜歯窩に強く当たると、痛みを感じることがあります。結論として、「反対側で噛む」のは、最低でも抜糸までの一週間は徹底する。その後は、ご自身の傷の治り具合と相談しながら、痛みや違和感がないことを確認しつつ、少しずつ、慎重に、抜歯側での咀嚼を再開していく、というのが、最も安全な進め方と言えるでしょう。
抜歯後、反対側で噛むのはいつまで?