歯の治療が終わり、麻酔が効いている間は快適だったのに、二、三時間経って痺れが薄れてくるのと同時に、ズキン、ズキンとした強い痛みがぶり返してきた。そんな経験はありませんか。これは、決して治療が失敗したわけでも、異常なことでもありません。麻酔が切れかけた時に痛みが強くなるのには、ちゃんとした理由があるのです。この現象を理解するためには、「痛み止め」と「麻酔」の役割の違いを知る必要があります。治療前に処方されることのある「痛み止め(鎮痛剤)」は、痛みの原因物質であるプロスタグランジンの生成を抑えることで、体全体として痛みを感じにくくさせる薬です。一方、「麻酔薬」は、注射された局所の神経伝達を一時的にブロックし、痛みの信号そのものが脳に届かないようにする薬です。治療後、歯科医師は、麻酔が切れた後の痛みを予測して、「麻酔が完全に切れる前に、痛み止めを飲んでおいてくださいね」と指示することがあります。これは非常に重要な指示です。なぜなら、痛みは、一度強くなってしまうと、それを抑えるのにより多くの薬が必要になり、コントロールが難しくなるという性質があるからです。痛みの信号が脳にガンガンと送られている状態から、それを鎮めるのは大変なのです。麻酔が切れかけた時に痛みが強くなるのは、まさにこのタイミングを逃してしまった結果です。麻酔という、痛みの信号を強制的に遮断していた強力なダムが決壊し始め、治療による炎症という、ダムの向こう側に溜まっていた痛みの濁流が一気に流れ込んでくる。しかし、痛み止めという次のダムの準備ができていないため、脳は痛みの信号をダイレクトに受け止めてしまうのです。これが、麻酔が切れかけた時に、一時的に痛みがピークに達するように感じるメカニズムです。この辛い時間帯を避けるための最善策は、歯科医師の指示通り、麻酔がまだ効いている、痛みを感じないうちに、早めに痛み止めを服用しておくことです。そうすることで、麻酔の効果が薄れてくるのと、痛み止めの効果が現れ始めるのが、スムーズにバトンタッチし、痛みのピークを作ることなく、穏やかに乗り切ることができるのです。
なぜ麻酔が切れかけた時に痛みが強くなるのか