「ちょっとだけだから」「自分の歯ブラシが見当たらないから」といった、ほんの軽い気持ちで、家族の歯ブラシを借りてしまった、あるいは、同じコップに立てていて、毛先同士が触れ合っている。これらの行為は、多くの家庭で無意識のうちに行われているかもしれませんが、口腔衛生の観点からは、極めてリスクの高い、絶対に避けるべき習慣です。歯ブラシの共用や接触は、虫歯菌や歯周病菌といった、口の中の細菌を家族間で「交換」し合う、最も直接的なルートとなります。特に、虫歯の原因菌であるミュータンス菌は、唾液を介して感染することが知られています。生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、虫歯菌は存在しません。しかし、親が使ったスプーンで離乳食を与えたり、キスをしたりすることで、親の口から子供へと感染していきます。歯ブラシの共用は、これと同様に、非常に濃厚な細菌の交換行為なのです。親が虫歯菌を多く持っている場合、それを子供の歯ブラシに移してしまい、子供が虫歯になりやすい口内環境を作ってしまう原因になりかねません。また、歯周病も細菌による感染症です。家族の誰かが歯周病にかかっている場合、その歯ブラシを共用すれば、歯周病菌が他の家族の口の中へと移るリスクがあります。さらに、風邪やインフルエンザ、ヘルペスといった、ウイルス性の感染症も、歯ブラシを介して家庭内感染を広げる大きな原因となります。体調を崩している人の歯ブラシには、ウイルスが大量に付着している可能性があります。それが、他の家族の歯ブラシと接触したり、誤って使われたりすれば、感染はあっという間に広がってしまうでしょう。これらのリスクを避けるために、家族であっても、歯ブラシは「一人一本、絶対に共用しない」というルールを徹底することが不可欠です。そして、保管の際も、一本のコップにまとめて入れるのではなく、歯ブラシスタンドなどを使って、それぞれの毛先が触れ合わないように、距離を保って保管することが重要です。消毒などのプラスアルファのケアも大切ですが、まずはこの「個人のテリトリーを守る」という、最も基本的な衛生管理を、家族全員で実践しましょう。
家族間での歯ブラシの共用・接触は絶対NG!