歯ぎしり対策としてマウスピースの重要性を知ると、手軽に手に入る市販品に目が行く方も多いかもしれません。ドラッグストアやインターネットで数千円で販売されているマウスピースは、確かに入り口としては魅力的です。しかし、歯科医院で保険を適用して作成するオーダーメイドのマウスピースとは、その目的、材質、そして安全性において、全くの別物であることを理解しておく必要があります。両者の違いを知ることは、正しい治療への第一歩です。まず、最大の違いは「適合性」です。歯科医院で作成するマウスピースは、患者さん一人ひとりの歯型を精密に採取し、その人にぴったり合うようにオーダーメイドで作られます。これにより、噛み合わせのバランスを崩すことなく、均等に力が分散されるように設計されています。一方、市販品の多くは、お湯で柔らかくして自分で歯型を取るタイプです。これは一見手軽ですが、素人が正確な噛み合わせを再現することは極めて困難です。不適切な適合のマウスピースは、特定の歯にだけ強く当たってしまったり、顎を不自然な位置に誘導してしまったりする危険性があります。その結果、歯ぎしりが悪化するだけでなく、噛み合わせのズレや新たな顎関節症を引き起こすことさえあるのです。次に、「材質」の違いです。歯科医院で保険適用で作られるマウスピースは、主に「ハードタイプ」と呼ばれる硬い樹脂で作られます。この硬さが、歯ぎしりの強大な力から歯をしっかりと守り、歯のすり減りを防ぎます。対して、市販品の多くは柔らかい「ソフトタイプ」です。この柔らかい材質は、装着感は良いかもしれませんが、グミのような感触が逆に噛みしめを誘発してしまい、歯ぎしりを助長する可能性があると指摘されています。最後に、「診断の有無」です。歯科医院では、マウスピースを作成する前に、なぜ歯ぎしりが起きているのか、虫歯や歯周病など他の問題はないかといった、専門的な診断が行われます。その上で、総合的な治療計画の一部としてマウスピースが処方されます。市販品の使用は、この重要な診断プロセスを全て飛ばしてしまうことになります。手軽さと安さには、それ相応のリスクが伴います。大切な歯と顎の健康を守るためには、自己判断で市販品に手を出すのではなく、必ず歯科医師の診断のもと、自分専用に作られた適切なマウスピースを使用することが不可欠です。
歯科医院で作るマウスピースと市販品との決定的違い