若い頃は白かったはずの歯が、年齢を重ねるにつれて、だんだんと茶色っぽく、あるいは黄色っぽく見えてくる。これは、多くの中高年の方が抱える悩みの一つです。加齢による歯の変色は、単一の原因ではなく、長年の生活習慣と歯の構造的な変化が複合的に絡み合って起こる、いわば自然な老化現象の一つとも言えます。そのメカニズムは、大きく分けて二つあります。一つ目は、長年にわたる「着色物質の蓄積」です。私たちは毎日、食事や飲み物を通じて様々な色素を口にしています。コーヒー、お茶、醤油、ケチャップなど、数え上げればきりがありません。これらの色素は、少しずつ歯の表面のエナメル質に浸透し、蓄積されていきます。若い頃は唾液の分泌も多く、歯の再石灰化能力も高いため、ある程度は洗い流されたり修復されたりしますが、年齢とともにその機能は低下します。数十年にわたって蓄積された色素は、歯の内部にまで染み込み、全体的な茶色い黄ばみとなって現れるのです。二つ目の原因は、「象牙質の肥厚とエナメル質の菲薄化」です。歯の最も外側にあるエナメル質は、半透明の組織です。その内側には、黄色っぽい色をした象牙質があります。若い頃はエナメル質が厚いため、内側の象牙質の色はあまり透けて見えません。しかし、年齢を重ねると、長年の噛み合わせによる摩耗などで、エナメル質は少しずつすり減って薄くなっていきます。一方で、内側の象牙質は、外部からの刺激に対して歯を守ろうとする生理的な反応として、少しずつ厚みを増していきます(第二象牙質の添加)。つまり、外側の白いベール(エナメル質)は薄くなり、内側の黄色い本体(象牙質)は厚くなるわけです。その結果、内側の象牙質の色がより強く透けて見えるようになり、歯全体が黄色から茶色っぽく見えてくるのです。この加齢による変色は、ある程度は仕方のないことですが、歯科医院でのホワイトニングやクリーニングによって、若々しい白さを取り戻すことは十分に可能です。