過去に虫歯治療で入れた銀歯。ふと気づくと、その銀歯自体や、周囲の歯茎、さらには隣の健康な歯までが黒ずんでいることがあります。これは見た目にも気になりますが、果たして放置していても良いものなのでしょうか。結論から言うと、多くの場合、交換を検討するのが望ましいと言えます。銀歯が黒くなる主な原因は、経年による金属の「腐食」と「イオンの溶出」です。保険診療でよく使われる「アマルガム」や「金銀パラジウム合金」といった金属は、唾液に常に晒される過酷な口内環境の中で、少しずつ錆びたり、金属イオンが溶け出したりします。この溶け出した金属イオンが、歯の象牙質に染み込んで歯を黒く変色させたり、歯茎に沈着して「メタルタトゥー」と呼ばれる黒いシミを作ったりするのです。これらの変色自体が直接的に体に害を及ぼすことは少ないですが、いくつか見過ごせない問題点があります。まず、審美的な問題です。口を開けた時に黒い部分が見えるのは、清潔感に欠ける印象を与えかねません。特に前歯に近い部分では、大きなコンプレックスになることもあります。次に、金属アレルギーのリスクです。今は症状がなくても、長年にわたって金属イオンが体内に取り込まれ続けることで、ある日突然、原因不明の皮膚炎などのアレルギー症状を引き起こす可能性があります。そして最も重要なのが、二次虫歯のリスクです。銀歯は歯と完全に一体化しているわけではなく、セメントで合着されているだけです。時間が経つと、このセメントが劣化して溶け出し、銀歯と歯の間に微細な隙間ができます。その隙間から虫歯菌が侵入し、銀歯の下で気づかないうちに虫歯が再発・進行してしまうのです。黒い変色は、その銀歯が口の中で長期間機能し、劣化してきているサインとも言えます。見た目やアレルギー、二次虫歯のリスクを考慮すると、セラミックのような非金属で、審美的にも優れ、歯と強固に接着する材料に交換することは、口の健康を長期的に維持する上で非常に価値のある選択と言えるでしょう。