歯の神経が死ぬと黒くなるのはなぜか
健康な歯は、象牙色から白に近い色をしていますが、中には一本だけ、他とは明らかに違う黒ずんだ色に変色してしまう歯があります。これは多くの場合、歯の内部にある神経、すなわち「歯髄」が死んでしまった(失活した)ことが原因です。では、なぜ神経が死ぬと歯は黒くなってしまうのでしょうか。そのメカニズムは、人が体をぶつけた時にできる「あざ」に似ています。私たちの歯の神経(歯髄)は、神経線維だけでなく、無数の毛細血管も含まれています。虫歯が深く進行したり、転倒などで歯に強い衝撃が加わったりすると、この歯髄内の血管が傷つき、内出血を起こします。しかし、歯は骨のように硬い組織で覆われているため、出血した血液は外に排出されず、歯の内部に溜まってしまいます。この血液に含まれるヘモグロビンが、時間の経過とともに変性し、黒っぽい色に変わります。そして、その色素が歯の内部にある象牙質の細かな管(象牙細管)に染み込んでいくことで、歯全体が外側から見て黒ずんで見えるようになるのです。神経が死んでしまった直後は、激しい痛みを感じることもありますが、完全に死んでしまうと痛みは消えてしまいます。そのため、痛みがないからと変色を放置してしまう人も少なくありません。しかし、これは非常に危険な状態です。死んで腐敗した歯髄は、細菌の温床となり、歯の根の先端部分で炎症を起こし、膿の袋を作ることがあります。この状態になると、噛んだ時に痛みを感じたり、歯茎が腫れたり、最悪の場合は顎の骨を溶かしてしまうことさえあります。歯の変色は、単なる見た目の問題ではなく、歯の内部で起きている深刻なトラブルのサインです。一本だけ色の違う歯に気づいたら、痛みや自覚症状がなくても、必ず歯科医院を受診し、適切な診断と治療を受ける必要があります。