ふと鏡を見た時、歯と歯茎の境目、つまり歯の根元が黒ずんでいることに気づいて、ドキッとした経験はありませんか。特に痛みもないし、小さな変化だからと、つい見て見ぬふりをしてしまいがちです。しかし、この「痛くない黒ずみ」は、あなたの口の中で何らかのトラブルが静かに進行していることを示す、重要なサインかもしれません。痛みの有無だけで、問題の深刻さを判断するのは非常に危険です。歯の根元が黒くなる原因は、一つではありません。まず、最も疑われるのが「虫歯」の存在です。歯の根元はエナメル質が薄く、歯茎が下がって露出した象牙質は、酸に対して非常に弱いため、虫歯になりやすい場所です。初期の虫歯は、痛みもなく、ただ茶色から黒っぽく変色するだけの場合が多く、これを「ただの着色だろう」と放置している間に、内部で静かに進行してしまいます。次に考えられるのが、「過去の治療で使われた金属の影響」です。保険診療でよく使われる銀歯などの金属の詰め物や被せ物は、長年の使用により、金属イオンが溶け出して歯や歯茎を黒く変色させることがあります。これは歯そのものが悪くなったわけではありませんが、審美的な問題や、金属アレルギーのリスクをはらんでいます。また、歯の神経が死んでしまった「失活歯」も、歯が黒ずむ原因となります。過去に歯を強くぶつけたり、深い虫歯の治療で神経を抜いたりした場合、歯の内部で血液成分が変性し、歯全体が、特に根元から黒っぽく変色してくることがあります。神経がないため、痛みを感じることはありませんが、歯はもろくなっており、放置すると根の先に病巣ができる危険性があります。さらに、歯周病によって歯茎が下がり、歯石が歯の根元に付着している場合、その歯石が飲食物の色素を吸収して黒く見えることもあります。このように、痛みのない黒ずみの裏には、虫歯、金属、死んだ神経、歯石など、様々な原因が隠れているのです。その正体を正確に見極め、手遅れになる前に対処するためにも、自己判断で放置せず、まずは歯科医師の診断を仰ぐことが、あなたの歯の健康を守るための賢明な第一歩と言えるでしょう。
歯の根元の黒ずみ、痛くないからと油断は禁物!