歯ではなく顎が痛みの原因である「顎関節症」と診断された場合、その治療はどのように進められるのでしょうか。顎関節症の治療は、一つの特効薬があるわけではなく、症状の重さや原因に応じて、セルフケアと専門的な治療を組み合わせて行われるのが一般的です。まず、症状が軽度の場合、基本となるのが「セルフケア」です。歯科医師の指導のもと、日常生活の中で顎への負担を減らす工夫を自分自身で行います。具体的には、硬い食べ物(フランスパン、ナッツ、スルメなど)や、長時間ガムを噛むといった、顎を酷使する行為を避けることが重要です。食事の際は、一口を小さくし、左右均等にゆっくりと噛むように心がけます。また、無意識に行っている癖、例えば、頬杖をつく、うつ伏せで寝る、歯を食いしばるといった行為は、顎に不自然な力を加えるため、意識してやめるようにします。筋肉の緊張を和らげるために、蒸しタオルなどで顎の周りを温めたり、優しくマッサージしたりするのも効果的です。これらのセルフケアで改善が見られない場合や、症状が中等度以上に進んでいる場合は、専門的な治療へと移行します。最も一般的な治療法の一つが、「スプリント療法」です。これは、患者さん一人ひとりの歯型に合わせて作成したマウスピース(スプリント)を、主に就寝中に装着するものです。スプリントは、歯ぎしりや食いしばりによる強力な力から歯と顎関節を守り、筋肉の緊張を和らげる効果があります。痛みや炎症が強い場合には、消炎鎮痛剤などの「薬物療法」も併用されます。また、筋肉の緊張が著しい場合には、理学療法士によるマッサージや、低周波治療といった「理学療法」が行われることもあります。ごく稀ではありますが、関節の構造そのものに問題があり、これらの保存的な治療で全く改善しない重度のケースでは、関節内を洗浄する「関節腔内洗浄療法」や、外科的な手術が検討されることもあります。顎関節症は、生活習慣と密接に関わる病気です。専門家の助けを借りながら、根気強く自分自身の体と向き合っていくことが、治療の鍵となります。
顎関節症のセルフケアと専門的治療