歯の痛みと、それに伴う頭痛。耐えがたいその症状を、一刻も早く和らげたい一心で、多くの人がまず市販の鎮痛剤に手を伸ばします。確かに、ロキソプロフェンやイブプロフェンといった成分を含む鎮痛剤は、痛みの原因物質であるプロスタグランジンの生成を抑えることで、一時的に痛みを感じにくくさせてくれます。しかし、ここで絶対に忘れてはならないのは、鎮痛剤はあくまで「対症療法」であり、痛みの根本原因を治しているわけではないという事実です。薬を飲んで痛みが和らぐと、多くの人は安心してしまい、歯科医院へ行くのを先延ばしにしがちです。しかし、その間にも、水面下では病状が着実に進行しています。例えば、痛みの原因が虫歯による歯髄炎だった場合、鎮痛剤でごまかしている間に、歯の神経は取り返しのつかないダメージを受け、最終的には壊死してしまいます。神経が死んでしまえば痛みは一旦なくなりますが、それは治ったのではなく、腐敗した神経が細菌の温床となり、歯の根の先に膿の袋を作る「根尖性歯周炎」という、より深刻な病態へと移行したことを意味します。この段階になると、治療はさらに複雑で長期間に及ぶことになり、最悪の場合は抜歯に至る可能性も高まります。また、痛みの原因が歯性上顎洞炎や噛み合わせの不調であった場合も同様です。鎮痛剤は、あくまで火災報知器のベルを無理やり止めているようなもので、火元である炎症や不具合はそのまま放置されているのです。根本的な治療とは、歯科医院で正確な診断を受け、痛みの原因そのものを取り除くことです。虫歯であれば神経の治療を、歯周病であれば歯石の除去を、噛み合わせの問題であればその調整を、親知らずが原因であれば抜歯を行う。これらの専門的な治療によってはじめて、あなたは本当の意味で痛みから解放されるのです。鎮痛剤は、あくまで歯科医院を受診するまでの「つなぎ」として、賢く利用するもの。痛みが和らいだ時こそ、根本治療に踏み出す絶好のタイミングだと心得ましょう。