歯を調べても虫歯も歯周病も見当たらない。レントゲンにも異常はない。それなのに、歯が痛くてたまらない。このような、歯そのものに原因がないにもかかわらず歯痛として感じられる痛みを、「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」と呼びます。「歯が痛いのか顎が痛いのかわからない」という悩みの多くは、この非歯原性歯痛に分類される可能性があります。これは、痛みの原因が多岐にわたるため、診断が非常に難しいとされています。非歯原性歯痛の代表的な原因として、まず挙げられるのが「筋・筋膜性歯痛」です。これは、顎を動かす筋肉(咀嚼筋)の過度な緊張や疲労が原因で、筋肉内にできたトリガーポイント(痛みの発生源)からの関連痛が、歯の痛みとして感じられるものです。歯ぎしりやストレスが引き金になることが多く、「奥歯が浮いた感じ」「鈍い圧迫感」といった症状が特徴です。次に、「神経障害性歯痛」があります。これは、顔の感覚を司る三叉神経などに何らかの損傷や異常が生じることで起こる痛みです。代表的なものに三叉神経痛があり、「電気が走るような」「突き刺すような」と表現される、瞬間的で激しい痛みが発作的に起こります。歯磨きや洗顔といった些細な刺激で誘発されることもあります。また、「神経血管性歯痛」も考えられます。これは、片頭痛などの頭痛が、歯の痛みとして現れるものです。頭痛の発作と連動して、脈打つようなズキズキとした歯痛が起こります。さらに、上顎洞炎(副鼻腔炎)などの鼻の病気が原因で、上の奥歯が痛む「上顎洞性歯痛」や、稀ではありますが、狭心症などの心臓の病気の関連痛が下の歯に現れることもあります。そして、うつ病や不安障害といった心理的な要因が、身体的な痛みとして現れる「心因性歯痛」も存在します。このように、非歯原性歯痛は、その背景に筋肉、神経、血管、近接する器官の病気、さらには心理的な問題まで、様々な原因が潜んでいます。歯科で異常なしと言われたのに痛みが続く場合は、これらの可能性を視野に入れ、ペインクリニックや心療内科など、他科との連携も必要になることがあります。