もう何年も歯医者から足が遠のいていた私ですが、ある日突然、奥歯に鋭い痛みが走りました。冷たい水がしみるようになり、これはもう限界だと観念して歯医者に行く決意を固めました。正直なところ、心臓はバクバクで、予約の電話をかける手も震えるほどでした。子どもの頃に経験した、あのキーンという機械音と痛みが鮮明に蘇り、診察台の上で何をされるのだろうかと不安でいっぱいだったのです。予約した日、私は緊張の面持ちでクリニックのドアを開けました。しかし、院内は想像していたような冷たい雰囲気ではなく、明るく清潔で、受付の方も非常に柔らかな笑顔で迎えてくれました。その時点で少しだけ肩の力が抜けました。問診票には、現在の症状に加えて「治療がとても怖いです」と正直に書き添えました。診察室に呼ばれ、歯科医師の先生と対面した時も、その緊張はまだ続いていました。先生は私の問診票に目を通すと、まず「怖いですよね。大丈夫ですよ、今日はまずお口の中を見せていただくだけですからね」と優しく声をかけてくれました。その一言で、私の心は大きく救われたのです。先生は口の中を診察した後、撮影したレントゲン写真を見せながら、痛みの原因となっている虫歯の状態を丁寧に説明してくれました。治療法についても複数の選択肢を提示し、それぞれのメリットとデメリット、費用の目安まで詳しく話してくれたので、納得して治療方針を決めることができました。治療中も「今から少し響きますよ」「痛かったらすぐに手を挙げてくださいね」と常に声をかけ続けてくれ、私の不安を最大限に取り除こうとしてくれているのが伝わってきました。結局、治療は数回に及びましたが、最後まで痛みを感じることはほとんどなく、あれほどまでに恐怖を感じていたのが嘘のように、安心して通い続けることができました。歯医者への苦手意識は、丁寧なコミュニケーションと配慮で大きく変わるのだと実感した出来事です。