歯の溝や表面にできる虫歯は、鏡で見れば「黒い点」や「穴」として自分でも発見しやすいものです。しかし、虫歯にはもっと厄介で、気づきにくい場所に潜むタイプが存在します。それが、歯と歯の隣り合う面(隣接面)にできる「歯と歯のあいだの虫歯」です。この虫歯は、歯科用語で「隣接面カリエス」と呼ばれ、発見が遅れやすく、気づいた時には大きく進行していることが多い、非常にたちの悪い虫歯なのです。なぜ、歯と歯のあいだは虫歯になりやすいのでしょうか。その最大の理由は、歯ブラシの毛先が届きにくい、清掃が極めて困難な場所だからです。毎日丁寧に歯磨きをしているつもりでも、歯と歯が接しているコンタクトポイント周辺には、食べ物のカスや歯垢(プラーク)がどうしても残りやすくなります。この磨き残された歯垢の中で、虫歯菌が糖分をエサにして酸を作り出し、歯の表面のエナメル質をじわじわと溶かしていくのです。この虫歯の最も怖い点は、その「隠密性」にあります。歯と歯のあいだで発生するため、外側からは全く見えません。初期段階では、歯の表面は健康なままで、内部でまるでアリの巣のように虫歯が広がっていきます。そのため、痛みやしみるといった自覚症状が出るまで、本人が気づくことはほとんどありません。そして、何らかの症状が出て歯科医院を受診した時には、虫歯はすでにエナメル質を突き破り、内側の象牙質にまで達していることが大半です。象牙質はエナメル質よりも柔らかいため、一度虫歯が達すると、進行スピードは一気に加速します。最悪の場合、見た目には小さな変化しかなくても、神経にまで虫歯が達していたり、歯の内部がスカスカになっていて、ある日突然、歯が大きく欠けてしまったりすることもあります。歯と歯のあいだの虫歯は、見えない場所で静かに進行するサイレントキラーです。この見えない敵から歯を守るためには、毎日の歯磨きに「デンタルフロス」や「歯間ブラシ」を取り入れることが、絶対に不可欠なのです。