奥歯の奥が腫れて痛む。口が開きにくく、顎全体が重苦しい。これは、親知らずのトラブルが原因で、「歯の痛み」と「顎の痛み」が複合的に現れている典型的な状態です。親知らずは、現代人の顎の大きさに比べてスペースが足りないことが多く、正常に生えずに様々な問題を引き起こすトラブルメーカーとして知られています。特に、横向きや斜めに埋まった親知らずは、「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」という急性の炎症を起こしやすくなります。親知らずと歯茎の間にできた深いポケットに細菌が溜まり、体の抵抗力が落ちた時に一気に増殖して、歯茎を赤く腫れ上がらせ、強い痛みを引き起こすのです。この痛みは、親知らずのある場所だけでなく、三叉神経を介して顎全体やこめかみ、耳のあたりにまで放散することがあります。そのため、患者さん自身は「顎が痛い」と感じることも少なくありません。さらに、智歯周囲炎の炎症は、歯茎だけでなく、周囲の組織にも波及していきます。特に、口を開け閉めする際に使われる「咀嚼筋」にまで炎症が及ぶと、筋肉がこわばってしまい、口が指二本分も開かなくなる「開口障害」が起こります。こうなると、食事をとるのも、会話をするのも困難になり、日常生活に大きな支障をきたします。痛みと開口障害が同時に現れると、症状は顎関節症と非常によく似ているため、「顎がおかしくなった」と勘違いしてしまう方もいます。しかし、顎関節症との大きな違いは、原因が「細菌感染による急性の炎症」である点です。したがって、治療としては、まず抗生物質や消炎鎮痛剤を投与して、急性の炎症を抑えることが最優先となります。そして、炎症が落ち着いた後に、根本原因である親知らずを抜歯することが、再発を防ぐための最も確実な方法となります。歯が原因の痛みなのか、顎が原因の痛みなのかわからない時、特に一番奥に痛みや腫れを感じる場合は、親知らずのトラブルを強く疑い、早急に歯科口腔外科を受診することが重要です。
親知らずが引き起こす痛みと開口障害