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歯周病が進行すると歯に物が挟まりやすくなる理由
若い頃はそれほど気にならなかったのに、年齢を重ねるにつれて、歯に物が挟まりやすくなった。そう感じている方は、もしかすると「歯周病」が静かに進行しているサインかもしれません。歯周病は、歯そのものではなく、歯を支える周りの組織(歯茎や歯槽骨)が、細菌によって破壊されていく病気です。そして、この歯周病の進行こそが、歯に物が挟まりやすくなる大きな原因となるのです。健康な歯茎は、歯と歯のあいだの隙間を、まるで山の頂のように鋭く尖った「歯間乳頭」がぴったりと埋めています。しかし、歯周病によって歯茎に炎症が起き、さらにその下にある歯槽骨が溶かされていくと、この歯間乳頭は退縮し、歯茎全体が下がっていきます。その結果、これまで歯茎で覆われていた歯の根元部分が露出し、歯と歯のあいだに「ブラックトライアングル」と呼ばれる三角形の黒い隙間ができてしまうのです。この隙間は、食べ物の繊維などが引っかかる絶好のポケットとなり、物が挟まる直接的な原因となります。さらに、歯周病が重度になると、歯を支える骨が失われることで、歯が少しずつ動揺し始めます。歯がグラグラしたり、本来の位置から傾いたり、移動したりすることで、歯と歯のあいだの接触関係が緩くなり、隙間がさらに大きくなってしまうこともあります。こうなると、ますます物が挟まりやすくなり、そこに溜まった食べカスが、さらに歯周病を悪化させるという、最悪の悪循環に陥ってしまいます。つまり、「歯に物が挟まりやすくなった」という自覚症状は、歯周病が単なる歯茎の炎症(歯肉炎)のレベルを超え、歯を支える骨にまで影響が及ぶ「歯周炎」へと進行していることを示す、中期以降のサインである可能性が高いのです。このサインを見逃さず、できるだけ早く歯科医院を受診し、歯周病の進行を食い止めるための専門的な治療(歯石除去など)を開始することが重要です。そして、治療と並行して、歯間ブラシなどを使って、できてしまった隙間を丁寧に清掃するセルフケアを徹底することが、これ以上の悪化を防ぐ鍵となります。